
抜き放った刀を再び鞘に納める動作を『納刀(のうとう)』と呼ぶ。
型稽古を実戦の模擬としてのみ捉えるなら、納刀に心を配る意義は薄い。
相手をすでに斬り伏せているなら隙のない所作を心掛ける必要はないし、そもそも人を斬った刃を拭いもせずに鞘に戻すわけにはいかない。
それでも納刀は、抜刀と同じだけの丹念さをもって行なわれなければならない。
抜くも納めるも違いはなく、ともに同じく心身の遣い方を精錬してゆく稽古の過程だからだ。
もしも丁寧な抜刀を千回行ない、その間雑な納刀を千回繰り返していたとしたら、稽古を終える頃にはその人の技量は始める前より落ちているだろう。
かつて、同門の稽古者でせっかく身につけた技を錆びさせてしまった人を目の当たりにしたことがあるが、やはり居合稽古の際の抜刀に比べてあまりに無頓着な納刀が気にかかった。
日頃どれだけ細部にまで神経を行き届かせて鍛錬しているか、稽古に向き合うその人の姿勢がこういう所に現れる。
納刀の乱れは心の乱れ。
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