前回からの続き、実生活で受身が役立った経験その①。
10年くらい前、上野動物園内のフードショップでバイトしてた時のこと。
売店隣のウッドデッキで待つお客さんに揚げたてのチキンBOXを届けようとしたのだが、その日は雨上がり。
濡れた床板はぬるぬると滑り、足を取られて思い切りバランスを崩してしまった。
数歩よろめいたところで立て直しを諦め、手に持った商品は水平に維持したまま華麗な後受身で軟着陸した。
驚いた顔のお客さんに「チキンは無事です」と箱を手渡し、颯爽と店内に戻ったのであった。

そしてもう一つ、受身の経験その②。
この時は老人ホームで働いていて、夜勤明けに自転車に乗っての帰り道でのこと。
疲労で注意散漫だったのだろう、赤信号に切り替わったタイミングで飛び出し、横道から出てきた乗用車に撥ねられた。
その瞬間、一瞬で状況を把握し、すごく冷静に思考を巡らせたのを覚えている。
自分の自転車に身体が巻き込まれるとまずいなと思い、撥ね飛ばされながら車体を持ち上げて身体から遠ざけ、意識的に顎を引いて頭部を守って転がった。
車が動き出したばかりで速度が出ていなかったこと、直接衝突したのが身体ではなく自転車の前輪だったこと、そして撥ねられるまで車の接近に気づいていなかったことがかえって幸いした。
ぶつかる直前に車が見えていたら、緊張して身体を固めてしまったかもしれない。
着地の際に両の前腕を擦りむいたが、それ以外は痣一つ作らずにすんだ。
運転していたご夫婦は病院に行きましょうと言ってくれたが、「いえ、受身を取りましたので」とかっこよく言い残し、ひん曲がった自転車を押して去ったのであった。

受身は大いに役に立つ。
そして、良い子のみんなは赤信号に飛び出さないよう気をつけよう。
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